時価注記など企業会計のための評価
近年、IFRS(国際財務報告基準)が企業会計基準のグローバル・スタンダードの地位を確保しつつあります。今後さらにIFRSを導入する国が増加していくと予想され、日本においてもIFRSへのコンバージェンスが図られており、不動産関連に関する会計基準も整備が進んでいます。
このような流れの中で、不動産の価格は財務諸表に公表される数値として、客観性や正確性を求められていると言えます。
賃貸等不動産の時価注記
国際会計基準(IFRS)では、投資用不動産は時価評価と原価評価の選択適用であり、原価評価の場合には時価を注記することとなっています。
国際会計基準との調和を図ることが求められており、日本では時価評価は行わないものの、一定の企業(※)が保有する賃貸等不動産については、平成22年3月31日以後終了する事業年度末に係る財務諸表を作成するときから、時価注記を注記することを義務付けられています。
※
有価証券報告書等の開示義務を負っている会社、会社法上の大会社その他会計監査人設置会社
対象となる範囲
賃貸等不動産とは、棚卸資産に分類されている不動産以外のものであり、賃貸収益またはキャピタル・ゲインの獲得又はその両方を目的として保有されている不動産であり、以下の通りです。
不動産の区分 |
備
考 |
注記 |
投資不動産 |
投資の目的で所有する土地、建物その他の不動産 |
必要 |
遊休不動産 |
将来の使用が見込まれていない遊休不動産 |
必要 |
賃貸不動産 |
賃貸の用に供されている不動産(※) |
必要 |
上記以外 |
物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理に
使用されている不動産
|
任意 |
※
賃貸等不動産として使用される予定で開発中の不動産、賃貸を目的として保有されているものの、一時的に借り手がいない不動産も含まれます。
時価注記の手順
時価を注記するか否かは重要性を低価法により簿価を切り下げる必要があるかどうかの判断は、以下の手順で行われることになります。賃貸等不動産の総額に重要性が乏しい場合には、賃貸等不動産の注記自体を省略することができるとされています。
注記が必要とされている時価とは、公正な評価額をいいます。通常、観察可能な市場価格に基づく価額をいい、市場価格が観察できない場合には合理的に算定された価額をいいます。
この場合、「観察可能な市場価格に基づく価額」について、有価証券等の金融商品に代表されるような観察可能な市場価格は、日本の不動産市場において存在しないと考えられますが、売却予定価額や第三者からの取得価額がこれに近い概念と判断できます。
また、これら以外については市場価格が観察できない場合に合理的に算定された価額を指すものと考えられます。不動産の鑑定評価が必要とされるのは、市場価格が観察できない場合に合理的に算定された価額の評価が中心となりますが、その他の局面における意見書等の作成の需要もあります。
なお、重要性が乏しい不動産については、みなし時価算定も認められており、公示価格や相続税路線価といった容易に入手できる評価額や指標を合理的に調整したものを時価とみなすことができます。
賃貸等不動産の不動産鑑定評価
賃貸等不動産等については、通常の不動産市場で成立する価格の評価を行うこととなります。
固定資産の減損会計
バブルがはじけるまで、企業は多額の資金を様々な事業に投資し、貸借対照表の資産価額は肥大化していたところ、バブル崩壊後、不動産価格の大幅な下落に伴い、こうした資産価額が暴落し、企業は巨額の含み損を抱えることになりました。この結果、実際には価値のない資産が過大計上され、貸借対照表が企業の資産を適切に表現しているとは言えなくなった経緯があります。
信頼性のある財務諸表の作成が要請されていた社会的背景のほか、国際会計基準(IFRS)との調和を図る上でも、将来に繰り延べられるおそれのある損失を排除するべく、固定資産に対する減損会計が適用されることになりました。
固定資産の減損とは、経営環境等の変化により資産の収益性が低下し、固定資産投資額の回収が見込めなくなった状態をいいます。また、減損会計はこうした状況下において回収可能性を反映させるように帳簿価格を減額する会計処理をいいます。
減損会計は、平成17年4月1日以降に開始される会計期間から一定の会社に適用されることとなっています。
※
上場会社、有価証券報告書提出会社、商法上の大会社、地方住宅供給公社等(連結子会社含む)
減損会計の手順
減損会計は以下の手順で行われることになります。
1.資産のグルーピング |
減損損失の認識や測定を行う単位の判定 |
2.減損の兆候の有無の確認 |
減損が生じている可能性を示す事象の有無 |
3.減損損失の認識 |
割引前将来CFと帳簿価額の比較 |
4.減損損失の測定 |
回収可能価額と帳簿価額の比較 |
すべての固定資産に対して減損の損失を測定することが要請されてはなく、減損の兆候が認められるものに対し、減損を測定が必要となります。
1. 資産のグルーピング
固定資産は個々の資産単位ではなく、複数の資産を一体として利用している場合が多く見られます。このような場合、個別の資産を一つのまとまりとしてグルーピングを行い、減損会計の処理を行います。
2. 減損の兆候
減損の兆候とは、資産の一部または全部について回収が不可能とされる事象が発生していることをいいます。具体的には赤字事業に使用されている資産、遊休状態にある資産、時価が著しく下落して含み損を抱えている資産等が該当するとみなされます。
3. 減損損失の認識
現在価値に割り引かない将来CF(キャッシュフロー)と帳簿価額の比較を行います。割引前将来CFの総額が帳簿価額を下回っている場合、減損損失を認識する必要があります。
4. 減損損失の測定
減損損失を認識すべきであると判定された資産または資産グループについて、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減価損失として当期の損失とします。
こうした手順のうち、不動産鑑定評価が必要とされるのは、回収可能価額の基礎となる時価の把握に際が中心となりますが、その他の局面における意見書等の作成の需要もあります。
固定資産の不動産鑑定評価
減損損失は帳簿価格から回収可能価額を控除して求めることになります。
減損損失 = 帳簿価格 - 回収可能価額(※)
※
正味売却価格と使用価値を求め、いずれか高い方を採用します。
【正味売却価格】
時価から処分費用見込み額を控除して求めます。
この場合、通常の不動産市場で成立する価格の評価を行うこととなります。
【使用価値】
資産の継続使用と使用後の処分によって生じると見込まれる将来キャッシュフローの現在価値を求めます。
使用価値は現実の利用状況・利用者固有の事情等を前提としているため、通常の不動産市場で成立する価格とは異なる評価を行うこととなります。
減損会計の目的は、貸借対照表の固定資産評価を適正に行うことにより、将来に損失を繰り延べず、企業の透明性を高めることであり、まずは不動産の適正な時価の把握が必要と言えるでしょう。
棚卸資産の時価評価
棚卸資産は通常長期保有を前提とするものではありません。しかし、不動産の場合は素地の取得から開発・販売までに長期間が必要となる場合も少なくなく、保有期間中に不動産市場が変動することも考えられます。
バブル経済の崩壊に伴う不動産価格の大幅な下落により、不動産会社が保有する販売用不動産は巨額の含み損を抱えたものの、強制評価減が適用されることがなかったため、資産の売却時まで損失が先送りされることになりました。
このため、不動産の簿価と時価の乖離を適切に把握し、信頼性の高い財務諸表を作成することが要請されました。そこで。棚卸資産については平成20年4月1日以後開始する事業年度より、低価法が強制適用されることになりました。
棚卸資産の中でも不動産に関連があるのは販売用不動産です。これについては、取得原価と時価のうち、いずれか低い価格をもって貸借対照表価額とする必要があります。
なお、低価法は含み損のみを認識するものであり、含み益を認識しないため、時価会計とは異なります。
販売用不動産の評価(低価法)
販売用不動産の状況に応じ、AからCに区分した評価を行います。
販売用不動産等の状況に応じた時価評価を行った結果、正味売却価額(時価)が帳簿価額を下回っている棚卸資産に対して、簿価の切り下げが必要となります。
この場合、帳簿価額を正味売却価額まで減額し、当該減少額を減価損失として当期の損失とします。
こうした手順のうち、不動産鑑定評価が必要とされるのは、正味売却価額の基礎となる時価の把握に際が中心となりますが、その他の局面における意見書等の作成の需要もあります。
A. 開発が完了した販売用不動産
開発が完了しているものの、販売が完了していない状態における不動産であり、更地での分譲計画における造成後の分譲地、戸建分譲での計画における建物付分譲地、マンション分譲での計画における区分所有建物等があります。
次の計算式のうち、販売見込額について通常の不動産市場で成立する価格を評価します。
販売用不動産の時価=販売見込額-販売経費等見込額
B. 開発を行わない販売用不動産
転売目的で取得した不動産のほか、開発目的で取得したものの、社会的・経済的事情等の変化により開発の実現可能性が無いと判断された不動産等があります。
次の計算式のうち、販売見込額について通常の不動産市場で成立する価格を評価します。
なお、この場合、現況を所与とした売却を想定した評価を行います。
販売用不動産の時価=販売見込額-販売経費等見込額
C. 開発後販売する販売用不動産
開発の実現可能性のある開発前素地、開発造成中の土地等があります。
次の計算式のうち、開発事業等支出金について、通常の不動産市場で成立する価格を評価します。
開発事業等支出金の時価=
完成後販売見込額 - (造成・建築工事原価今後発生見込額+販売経費等見込額)
ただし、開発事業等支出金のうち、建築中の建物や金利といった不動産の鑑定評価に関する法律上の不動産の範疇ではないものが含まれている場合があり、この場合には不動産鑑定評価書ではなく、意見書等により対応することとなります。